仙台を拠点に活動するヒップホップグループ〈GAGLE〉のMC、HUNGER。国内ヒップホップ黎明期からシーンを支え続けてきた彼が初めて足を通す一足の靴。手掛けたのは世界的に高い評価を受ける靴職人、Noriyuki Misawa。そして両者をつなぐオリジナルプロダクトショップ「EACHTIME.」のItami。音楽・靴・ファッション――それぞれ異なるフィールドで活躍する3人による鼎談は、やがてものづくりの本質へと迫り、共鳴を引き起こす。
HUNGER(GAGLE)
ヒップホップグループ GAGLE のMC。鋭いリリックと独自のフロウでシーンを牽引し、国内外の音楽カルチャーに影響を与え続けている。仙台の街と深く結びつきながら、音楽を通じて新たな価値観を発信。キアヌ・リーブス主演の映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の劇中歌として「わ道 (DJ Mitsu the Beats Remix)」が起用されたのも記憶に新しい。今回の鼎談では、初めてMisawa の靴に触れ、クラフトマンシップに対するリアルな感覚を語る。
Noriyuki Misawa
靴職人としては2020年に天皇皇后両陛下より「御紋付銀手釦」を賜り、アーティストとしても代表作『足の巣』をはじめ多彩な作品を手掛け、ニューヨークやロンドン、パリなど世界中で作品を発表している。スパイク・リーなどのハリウッド映画界にも製作実績を持つほか、コラボレーションも積極的に行い、鉄腕アトムのプロジェクトも成功させる。今回の鼎談では、Misawaのヒップホップへの熱い想いも垣間見ることができた。
Itami(EACHTIME.)
仙台・二日町に位置するセレクトショップ「EACHTIME.」のオーナー兼デザイナー。国内外のブランドを独自の視点でキュレーションし、服だけでなく、靴やカルチャーを含めた“スタイル”を提案する。多くのクリエイターやアーティストと交流を持ち、街の空気を映すような店作りを続けている。今回の鼎談では、Noriyuki Misawa とHUNGERを引き合わせたキーパーソンとして、2人の交わりを見届ける。
1.「ヒップホップシーンに届ける靴」
ヤバい靴が完成しました。
HUNGER
(手に取りながら)すごい! すごすぎて逆に履けない(笑)。リアルなオーダーメイドの靴はジャストサイズが基本みたいで、普通の人は慣れてないから吐き気をもよおすことがあるみたいで。……覚悟はしてたんですけど、この靴がそういうことなんですね。
こういった靴を履くのは初めてなんですが、三澤さん的には普段から履いてほしいのか、それともライブでステージに立つときを想定してたり?
Misawa
もちろん普段から履いてもらえたらうれしいですけど、ステージ上で履いてもらえたら、よりありがたいですね。でも、履き慣れてないと気になっちゃってパフォーマンスに集中できない可能性もあるので、普段から履いて馴染ませていくのがよいかと思います。
HUNGER
絶対踏まれたくないですね。汚れてしまったら悲しい気持ちになる。常に「俺に近づくなよ!」っていう殺気を出しながら歩くようにします。
Itami
想像していたイメージと全然違ってびっくり。もちろんいい意味で!
Misawa
HUNGERさんに履いていただける靴を作れるなんて滅多にないチャンスなので、Itamiさんが想像していた「カチッとした革靴を作ってきました!」は違うかなと思い、「ヒップホップシーンに届けたい!」といった思いで作りました。
昔からヒップホップはすごい好きなんですけど、これまで積極的に関わってくることができなくて。なので、こういった形で関与できるのはうれしいですね。その第一弾ということもあり、ヒップホップの代名詞的な靴でもあるTimberlandのブーツを大胆に面白くアレンジした三澤解釈版を作らせていただきました。
自分で言うのもおこがましいんですが、こういった靴を作ることができる職人って……実はなかなかいないんです。みんながみんな一辺倒にクラシック作品を制作されると言いますか、「れっきとした黒い革靴になります」のような世界。そういった界隈とは違う職人の技、せっかく僕が作るのだったらクリエイションの幅をお見せしたかった。
Itami
見れば見るほど……味があるといいますか、いいですねえ。靴にめちゃめちゃ説得力がある。見れば見るほどそれが伝わってくる。
Misawa
ありがとうございます。今回の制作は僕としても新しい試みで、うちの若手デザイナーであるSakura Sumidaと一緒にデザインしたんですね。彼女はセンスが抜き出ていて、一緒に作りたいと声をかけたんです。水色のステッチとストラップはSakuraのアイディアを採用し、この靴のポイントのひとつにもなっています。
もともとのデザインのベースは僕が去年ニューヨークに行ったときに考えていたもので、それが靴を縁取るギザギザ感だったりします。制作のテーマが「ヒップホップシーンに届けたい靴」だったので、ニューヨークで考えるのが筋かなと思ったんです。アッパースエードの革もそうなんですが、ソールもあえて荒々しく野性的な質感で仕上げてます。今回も即興で作ったんですが、やはり靴も一足一足違う表情になる。ラップで言うところのフリースタイルに近い感覚ですね。
HUNGER
去年の10月にアルバム『Plan G.』をリリースしたんですけど、それ以降はすごく自然でいい感じに自分をさらけ出せるようになってきたんです。「自分のライブで自分が書いた歌詞をラップする」といった単純なことだけじゃなくて、関わる・交わる人たちの影響というか、仙台という街で活動する自分自身に対する自信を全面に出せるようになってきたんです。その良好な状態、熱を帯びている自分にMisawaさんが作った靴がぴったりフィットする。大袈裟じゃなく、この靴が持つイメージが今の僕にジャストでフィールしているというか、足元からガッチリ強固な人間にしてもらえる感覚ですね。
2.「靴職人としてのあくなきこだわり」
HUNGER
イタミくんはミサワさんを20~21歳くらいの頃から知ってると思うんですけど、当時と今の印象の違いや、むしろこんなに靴職人として有名になると思ってました?
Itami
印象は変わんないっすよね、何も。当時も今も変わらない。初対面からこんな感じでしたし。
Misawa
靴職人になりたくて(靴の)量販店でアルバイトをしていたときからの付き合い……大学4年生の頃から1年間くらいですかね。
Itami
お店では結構値段が高めの靴とかも販売していたんですけど、ミサワくんはにおいを嗅いでましたね(笑)。そんな人を初めて見たんでヤバいヤツかなと思ったんですけど、いろいろ靴についてたくさん聞かれましたね。僕は「そんなことより靴を売ってくれ!」と思っていましたけどね。
HUNGER
例えばどんなやりとりが?
Itami
トリッカーズっていう高級革靴とかも取り扱っていて、当時で6万円くらいだったかな。でも、そうした靴にもシワとか作りが甘い箇所があったりするんですけど、それを見て「イタミさん見てくださいよ! これはもう靴じゃないですよ」とか言ってきたり(笑)。
Misawa
そうそう、出来の悪い靴があったのは覚えてます。
Itami
出会いがそれだったんで、まあ昔も今も全然変わんないです。
HUNGER
なるほど。最初からクレイジーな印象だったんだ。
Itami
ミサワくんが仙台を離れて、靴職人として世界的な賞を受賞したとか聞いたりして、「やっぱあいつはすごかったんだな……」と思いましたよね。人柄もこのまんまだったし。なので、今日も自分の履いてる靴とか見せたくないんですよ、「これ、靴ですか?」って言われそうで(笑)。
Misawa
今はほどよく適当になってきたので辛口批評とかまったくしなくなりましたけど、当時は本当に真面目だったので、好きなものに対しては「いや、これは違う!」って指摘したりすること、ちょっと多かったかもしれないですね。
HUNGER
僕もそういうこだわりというか、「なぜこの音質でリリースしたんだ?」「なんでこの状態でプレスしちゃったんだろ」みたいに感じるときありますからね。ちなみに量販店つながりで、僕は八乙女にあるCDショップ「SCRUM」で働いてたことがあります。
3.「靴作りと音楽制作の共通点」
Misawa
実は大変失礼ながら、GAGLE「雪ノ革命」をリアルタイムで聴けていなかったんです。その当時はすべてを遮断して靴作りに没頭していて、ヒップホップを追えていなかったんですよね。もちろん、GAGLEというすごいヒップホップグループが仙台にいる、というのは聞いていたんですが。
HUNGER
大丈夫、全然全然失礼じゃないです。
Misawa
ちなみにHUNGERさんにドハマりしたきっかけは、DJ CELORYさんのアルバム『BEAUTIFUL TOMORROW』(2008年)に収録されてる「Happy Turn」って曲だったんです。
HUNGER
おお、まさかの「Happy Turn」! TARO SOULとKIN DA SHER ROCKの3人でマイクを回した曲ですね。
Misawa
たぶん200……300回以上は聴いてると思います。「HUNGERのラップ、ヤバいな……」って感じてからは、どんどん過去の楽曲も聴き漁っていくようになりました。
HUNGER
「屍を越えて」という2005年にリリースした曲があって、まだまだ日本のヒップホップがアンダーグラウンドな存在だったんですけど、洗練されたジャズの要素を取り入れつつも、ヒップホップの大事な部分は絶対に譲らない、という気持ちで作ったんですね。もう、夢中になって音楽を制作していた時期というか、ミサワさんが靴作りに没頭していた時期と重なるんじゃないかなと。
Misawa
日本のヒップホップシーンと靴業界、靴職人のシーンってすごく似ている部分じゃあるじゃないかなって思うんです。ヒップホップ文化がアメリカから渡ってきて、最初に形にしようとした第一世代がいたわけじゃないですか。靴はヨーロッパですけど、第一世代から第二、第三と継続して文化を更新していく。しかも、靴をただ上手に作るだけじゃ認めてもらえず、すでに「上手に作れて当たり前」になっているから第四、第五と続く世代にもなるとどんどんハードルが高くなってる。
ヒップホップも今やラップをする人口がめちゃくちゃ多くなったじゃないですか。そこでどう唯一無二の存在になるかを競い合う。その中でもHUNGERさんは、ヒップホップに精通していない人でも「全然違う!」って感じてもらえるくらい唯一無二の存在だと思っています。それは僕の目標でもあるし、唯一無二の靴を作ることができる存在でありたい。なので勝手に僕はHUNGERさんに憧れ、共感させていただいてます。
HUNGER
そっくりそのままミサワさんにその言葉をお返しいたします! でも、「僕のようなラップスタイルのフォロワーがいないんじゃないか……」って気になった時期もあったんですよ。「真似できない」のではなく「真似したくない」んじゃないかとか。「王道とは何か」みたいなことも考えるんですけど、いざ曲を作り出すと、王道なんてまったく考えず作り進めちゃってるんですよね。言葉で説明するのは難しいんですけど、確実に自分の中に“理想の形”のようなイメージは出来上がっていて、そこにどうアプローチしていくか? っていうのを日々模索している感じです。
Misawa
昔、有名なラッパーの人がテレビ番組で『最初にGAGLEを聴いたとき、もう聴かないようにしよう。だって絶対に影響を受けてしまうから』みたいなことを話していたんですけど、これってすごいことですよね。僕もそういった存在になりたいと思っています。
4.「次世代へつなぐ想い」
Misawa
HUNGERさんの人生において達成したいこと、今後ラップで形にしたいこととかありますか?
HUNGER
ラップでやりたいことは無限にあります。いくらでも作りたいし、トラックやリズムが違えば、それに自分がどう挑んでいくか、というシンプルなものなので。そうした激しいモチベーションは常にあるので、GAGLEとして、ソロとして曲を作る上で、何かしらの答えを探している感じですかね。不確定な何かを確信に変えるというか、その作業を楽しみながら制作できているので、燃え尽きるまで音楽は続けると思います。
Misawa
ちなみに仙台の若手で注目しているラッパーはいますか?
HUNGER
強い執着心のようなものを感じさせるラッパーには、めちゃくちゃ興味があります。それはミサワさんもイタミくんも、自分もそうなんだけど、やっぱり自らが表現するものに強い熱量と執着を持っている人には惹かれますね。
Misawa
同意見です。執着もそうなんですけど、突き抜けた異常性とか、「そこまでやる!?」みたいなものが垣間見えると可能性を感じますよね。
HUNGER
抗えない事情で好きなものを続けられなくなってしまったり、志半ばで夢を砕かれてしまったりとか、そうした不遇に直面することもあると思うんですけど、これだけは離さない、絶対に手放したくない! と握りしめ続けるのもひとつのセンスだと思うんです。 それが僕の場合は音楽なわけで。
Misawa
HUNGERさんの熱量、うちの若手にしっかり伝えておきます。イタミさんはどうですか?
Itami
こんな僕でも好きなことを続けていたら、ミサワくんやHUNGERさんとの仕事につながってるんだよね。つまり、「継続は力なり」は本当です。
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記事はこちらから Noriyuki Misawa 三澤則行
Noriyuki Misawa 三澤則行
Visual design by Yukari Sato 三澤則行 Noriyuki Misawa
写真 Chihiro Shizukawa Noriyuki Misawa 三澤則行
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