- MUSIC Ⅵ ~ホルン~
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2025
British-made oak bark leather (Welt, Outsole)
Belgian-made tanned leather (Upper)
L300 × W110 × H330
メゾンゲッコウソウで展示・販売中
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「MUSICⅥ ~ホルン~」は、音楽的要素と靴の形や機能が巧妙に結びついた、静かに、そして確実に観る者の心に響くアート作品である。銀座月光荘にて行われた個展で発表されたこの作品は、その独自の形態と革新的なデザインが、多くの観客を魅了し、深い印象を与えた。
月光荘店主・日比康造氏による評価は、この作品の思想的な深さを端的に表現している。「偉大な書道家の筆跡を思わせる、無理のない流れるような革の運び。考え抜かれたデザインでありながら、形状を超えて思想的に浮かび上がるホルンのフォルム。インソールとアウトソールを繋げるウェルト部分は、ホルンという楽器に倣って空洞になっていて、単に見た目を寄せただけでは無い、深い洞察が読み取れます。」三澤のデザインは単なる外見を超えて、音楽の構造や楽器そのものに込められた意味にまで思いを馳せるものである。
この作品が生み出された背景には、三澤の強い意識があった。日比康造という存在に対して、三澤は常に強いプレッシャーを感じていた。彼の持つ審美眼への敬意と共に、彼を納得させ、驚かせることができなければならないという思いが、創作に対する決意を強めていた。実際、製作は1.5ヶ月という期間の中で進められ、計算された精度と深い洞察に支えられたこの作品は、まさにその成果である。
作品の素材として使用されている「ヌメ革」は、三澤が近年好んで使用するものだ。この革は未着色で、時間と共にその風合いが変化し、使い込むほどに独特な美しさを帯びる。三澤にとって、この素材選びは一つの挑戦であり、革本来の質感を活かしつつも、誤魔化しが効かない素材に対して向き合う覚悟が込められている。革の表情を最大限に引き出すために、製作においては一切の妥協が許されなかった。
また、靴の形においては、ホルンの曲線美が大胆に表現されており、そのフォルムには音楽的なリズムが感じられる。ウェルト部分の空洞構造は、単に視覚的な模倣にとどまらず、ホルンという楽器が持つ音の通り道にインスパイアされている。このような形態の選択により、三澤は音楽と靴という異なる表現手段を見事に融合させ、視覚と聴覚の両方に訴えるアートを創出した。
日比康造氏の評価にあるように、「制作者の音色が聞こえてくるような、殺気と色気を帯びた作品」として、この「MUSICⅥ ~ホルン~」は、視覚的に豊かなだけでなく、実際に履くことができる作品である。アートとしての表現にとどまらず、生活の中で感じられる音楽を靴という形で体験させることができる点において、この作品はさらにその深さと広がりを見せている。